「記憶」に関する覚え書き
用語を整理してみました。まだ完成されたものとはいえません。お気づきの点はぜひ御連絡下さい。
2005/05/31八千代メンタルクリニック 長谷川雅彦
記憶の分類
@過去に関する記憶(回想記憶:retrospective memory)過去の体験に関する記憶
◎記憶把持期間の長短により以下に分類される
a)即時記憶(immediate memory)、短期記憶(short-term memory)
秒単位の記憶
例)電話をかけるまでの間に憶えている電話番号
b)長期記憶(long-term memory)
分・時間・月単位以上の記憶
◎情報の性質により以下に分類される
a)宣言記憶(declarative memory)
出来事と事実に関する記憶。言葉で人に伝えることがある程度可能な記憶
・出来事記憶:エピソード記憶(episodic memory)
自伝的出来事記憶(autobiographical memory)
個人的な体験に基づく記憶
例)震災に罹災した、今朝食べたもの、旅行して見たもの
社会的出来事記憶
社会的な事件に関する記憶
例)震災が起きたニュース
・意味記憶(semantic memory)
個人的意味記憶(personal semantic memory)
個人的な事実に関する知識
例)家族の名前、誕生日
社会的意味記憶
社会に共有される知識に関する記憶
例)言葉の意味、歴史上の事実
b)手続き記憶(procedural memory)、非陳述記憶(non-declarative memory)
やり方に関する記憶(“how-to” knowledge)
言葉で人に伝えることが困難な記憶
例)自転車の運転、ダンス
A現在進行中の出来事に関する記憶(作業記憶、作動記憶:working memory)
認知活動を行うに当たって必要な、一時的な情報保持機能
B未来に関する記憶(展望記憶:prospective memory)
これからしようとすることに関する記憶
例)今晩誰かと会う約束をしている
参考 通常の自伝的記憶の分布
幼児期健忘(childhood amnesia, infantile amnesia)
3歳以前の記憶は乏しい
レミニセンスバンプ(reminiscence bump)
高齢者では20歳代前後の記憶にピークがある
親近性効果(recency effect )
最近起こったことほど良く記憶している
健忘の分類
@健忘の程度による分類
全健忘(total amnesia)
一定の期間内の記憶が全くない
部分健忘(partial amnesia)
一定の期間内の記憶が部分的(記憶の島)
A時間軸による分類
a.逆行健忘(retrograde amnesia)
発病以前の出来事に対する健忘
b.前向健忘(anterograde amnesia)
発病以降の出来事に対する健忘
生起しつつある出来事に対する記憶障害
一般的には、意識障害回復後の健忘について言う。
通常は前向健忘と逆行健忘は同時に存在し、前向健忘が改善するにつれ過去の記憶から順に回復し逆行健忘の期間は縮小する。
逆行健忘には時間勾配を伴うことがある。最近の出来事ほど想起しにくく、古いものほど想起しやすい。
B原因による分類
器質性健忘(organic amnesia)
脳の損傷・機能異常による
頭部外傷、脳血管障害、てんかん、種々の中毒、縊頚等による虚血etc.
特殊なものとして一過性全健忘(transient global amnesia)
心因健忘(psychogenic amnesia)
心理的原因による
特殊なものとして精神病後健忘
心因性健忘(psychogenic amnesia)の分類(DSM-IV:APA)
@限局性健忘(localized/circumscribed amnesia) 最も多い
ある一定の期間の出来事が、全く思い出せない
例)交通事故で同乗家族を亡くした患者が、事故後二日間の出来事を思い出せない。
A選択性健忘(selective amnesia) @より少ない
ある一定の期間の出来事が、一部分思い出せない
例)交通事故で同乗家族を亡くした患者が、事故後二日間の出来事で、葬式を出したことは思い出せるが、その場で家族と話したことを思い出せない。
B全般性健忘(generalized amnesia)、全生活史健忘 まれ
生まれてからこれまでの人生が全く思い出せない。
C持続性健忘(continuous amnesia) まれ
ある時点からこれまでの人生が全く思い出せない。
D系統的健忘(systematized amnesia) まれ
あるカテゴリーの情報が全く思い出せない
例)特定の人物に関する全ての情報を思い出せない
心因健忘を起こす疾患
外傷後ストレス障害(PTSD: Post-traumatic Stress Disorder)
自分や身近にいる人が死に至るような事故事件に遭遇した後に起こる。通常は直後から症状が出るが、時に遅れて出てくることもある。
事件に関して、ありありと記憶がよみがえること(フラッシュバック)と、ハッキリと思い出せないことがある。
再体験(何度も思い出す)、回避(思い出すことを避ける)、過覚醒(いらいら・不眠)の3つが特徴。
症状は一ヶ月以上続き、時に長期化。
急性ストレス障害(ASD: Acute Stress Disorder)
PTSDと同様だが、症状の持続が一ヶ月以内。
健忘や現実感の喪失、感覚や感情の麻痺などが強い。
解離性遁走(dissociative fugue)
突然いなくなり、過去の記憶をなくし、他者のように振る舞う。
通常は数時間から数日で急速に回復する。
解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder) いわゆる多重人格
複数の人格が入れ替わる。
小児期に発病し、気づかれるまでに時間のかかることがある。長期化する。
解離性健忘(dissociative amnesia)
他の心身の原因無く、自分に関する重要なことが急に思い出せなくなる。
全生活史健忘(amnesia of personal history)
これまでの人生が全て思い出せなくなる。